29歳、処女。
「まさかと思うけど、あいつ、浮気とかしてるんじゃないかな………もしそうだったらどうしよう?」

「うーん………」


それは何とも答えづらい。

というか、私には分からない。


柏木さんは、悩ましげな表情でため息をつき、半分ほど残っていたビールを一気に飲み干した。

それから、酔いのせいか据わった目で、私をじっと見つめてくる。


「………ねえ、単刀直入に訊くけどさ。高梨さんも、レスとか経験したことある?」

「えっ? えーと……」


セックスレスどころか、セックスさえ経験したことありません。

………なんて、言えるわけがない。


「ないよねー、絶対。高梨さんて小動物みたいで可愛いし、癒し系だし、彼氏にもめちゃくちゃ愛されてそう」

「そ、そんなことないけど」

「またまたー」

「………」

「あーあ、どうすればレス解消できるのかな?」

「うーん、どうなんだろね………」


あいまいな誤魔化し笑いを浮かべつつ、心の中ではパニックだ。

どうやってこの場を乗り切ろうか、必死に考えていると。


「なになにー、なんか面白そうな話してない!?」


突然、向かいの席に座っていた同期の女の子が話に加わってきた。


「恋バナ? 聞かせて、聞かせてー」

「実はさあ………」


柏木さんがそちらに意識を向けたのを良いことに、私は「ちょっとお手洗いに」と席を立つ。

そそくさとトイレの中に入ると、洗面所の前でふうっと息をついた。



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