29歳、処女。
喜多嶋さんは、仕事の上でも『市場分析が的確だ』と定評があるけど、こういうことについても的確に分析できるようだ。



「喜多嶋さん、本当にありがとうございます」



私はぺこりと頭を下げた。


たぶん今、はじめて心から、喜多嶋さんに感謝の念を抱いている。


今までは正直なところ、ありがた迷惑、みたいに思っていたけど(ごめんなさい、喜多嶋さん)。



私の唐突な行動に、喜多嶋さんが目を見開いた。



「………なんだよ急に、改まって。不気味だな」



意表を突かれたように視線を泳がせ、それから困ったようにすっと目を伏せてしまった喜多嶋さんを見て、私は思わずくすくすと笑ってしまった。



「………おい、雛子。なに笑ってんだよ」


「ごめんなさい、だって………」



あ、『だって』は禁止だった、と思ったけど、喜多嶋さんが何も言わないので、私は言葉を続ける。



「喜多嶋さん、それ、照れてるんですよね。すごく分かりにくいけど」


「はっ?」



そう言って目をあげた喜多嶋さんの顔が、やっぱりいつもより赤みを帯びていて。



「喜多嶋さんって、意外とかわいいところもあるんですね」



私は無意識にそんなことを口に出していた。




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