29歳、処女。
ワンピースを脱いで、スカートを手に取ったところで、また「おい、雛子」と喜多嶋さんの声がする。



「はい? ちゃんと着替えてますよ」


「お前、ちゃんとタイツも脱げよ」


「えっ?」



驚いて動きを止めてしまった。



「さっき言っただろ。濃い色の分厚いタイツとか履いてると、男からしたら堅苦しく見えるんだよ。だから、脱げ」



逆らえる雰囲気でもなく、私は「はい」と力なく呟いて、タイツに指をかけた。



………なんでだろう。


なぜだか、ものすごくドキドキしてきた。



このドア一枚の向こうに、喜多嶋さんがいる。


そのことを意識してしまうと、こんな場所で、いくら見えないとはいえ、下着一枚の姿になるというのは、すごく恥ずかしいことに思える。



しかも、喜多嶋さんに渡されたカットソーを着るためには、タートルネックのインナーも脱いだほうがよさそうだ。


そうなると、私は今から、上も下も、下着一枚になるわけで。



―――どうしよう。

本当に緊張してきた。



恥ずかしい。


私はタイツを半分脱ぎかけた状態のままフリーズしてしまった。



でも、そんな事情を察してくれるような喜多嶋さんではなく。



「どうした? 雛子。着替えてるらしい音がしないぞ。早くしろ、俺が待ってるんだから」


「は、はい………」




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