29歳、処女。
それでもやっぱり、緊張は自分で抑えることなんかできない。


喜多嶋さんには、男の人には、分からないのだ。

異性の前で服を脱ぐ女の恥ずかしさが………。



「ひーなーこー、早く!」


「はい!」



私は諦めの境地にいたり、意を決して一気にタイツを脱いだ。


脚がすうすうして落ち着かない。



さらにそのままの勢いで、上に着ていたインナーも脱ぐ。


一糸まとわぬ素肌に、突然つめたい空気が触れて、ぞくりとした。



心臓が口から飛び出しそうなほど激しく胸を打っている。


指がかすかに震えて、自分の吐く息がやけに浅い。



すぐそこに男の人が、喜多嶋さんがいる。


そんな状況で、ブラとショーツだけの心もとない姿で、私は立っている。



何でもいいから、一秒でも早く何かを身にまといたくて、私は急いで試着用の服を手に取った。


でも、こんなときに限って、焦っているせいかなかなかうまく着られない。


襟口から腕を出してしまったり、顔を出せなくてもごもごしたりしながら、私はなんとか着替えを終えた。



「終わったか?」


「あ、はい」


「じゃ、早く出てこい」



私は試着室のドアを開き、「お待たせしました」と顔を出した。


すぐ近くに、腕組みをした喜多嶋さんが立っている。




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