29歳、処女。
「………」



喜多嶋さんは何も言わずにじろじろと私を見る。


その視線を感じると、布に覆われていない胸元が火照ってくるような気がした。


私は気まずさに顔をうつむける。



「………もう、いいですか。落ち着かないので」



早くもとの格好に戻りたい。


かろうじてそう呟くと、喜多嶋さんが「まだだ」と即答した。



「俺がいいって言うまで着てろ」



驚いて目をあげると、至近距離で視線が絡み合った。


喜多嶋さんがにっと悪戯っぽく笑う。



「よし、今日はこのまま出かけるぞ」



私は耳を疑い、それから「えっ?」と声をあげた。



「いやいやいや、そんな、無理です! こんな服で外に出るなんて」



慌てて首を横に振る。

すると喜多嶋さんがくいっと眉をあげた。



「ん? なんだ、『こんな服』って。失礼な言い方だな。つまりこの服屋を馬鹿にしてるのか」



私はさらに慌てて「そんなわけないじゃないですか!」と否定する。



「すてきなお洋服ですけど、でも、私なんかが着て歩いたら………」


「あーうるさいうるさい、もう黙れ」



私の言葉を遮って、喜多嶋さんは右手で私の口を塞いだ。



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