29歳、処女。
私は、29歳にして、いまだにヴァージン、つまり処女だ。



別に、何か理由があるわけではない。

例えば宗教的な理由とか、倫理的なこだわりとかがあって、婚前交渉は駄目!なんていう主義をもっているわけではない。


それに、何か原因があるわけでもないと思う。

例えば二目と見られないほど不細工だとか、ものすごく不潔だとか、とんでもなく性格に難ありだとか、そういうことはない、と思う。



それでも私は、そういう経験をしたことがない。

男の人とお付き合い、つまり恋愛的な意味での交際をしたことは何回かあったけれど、一度も、一線を越えたことがないのだ。



二十代の初めのころは、それなりに焦りがあった。


周りの友達はとっくに初体験を済ませて、だんだん恥じらいもなくなってきて、ランチや飲み会でも普通に性的な話題が出たりして、

自分だけが遅れている、という焦燥に駆られた。


でも、二十代も半ばになったあたりから、だんだんと、焦っても仕方がないか、という諦めの心境になってきて。


今はもう、運命に任せるしかない、と思っていたりもする。


でも。



「………このままオバさんになんて、なりたくない」


処女の三十路女なんて、嫌だ。


私の悲痛な心の叫びは、ひっそりと鏡の中に吸い込まれていった。



< 4 / 97 >

この作品をシェア

pagetop