29歳、処女。
「よく喋る口だな、おい。つまらない文句ばっかり言いやがって」



喜多嶋さんが呆れたように肩をすくめる。



「せめて、もっと色っぽいこと言えないのか」


「いっ、色っぽい………?」



私は塞がれた口でもごもごと言いながら、首をかしげた。



「色っぽいって、どんな?」


「たとえば、『センパイ! こんな服もう着ていられません、早く脱がせて!』ハート、みたいなさ」



喜多嶋さんがおどけた口調で言う。



『早く脱がせて』って………。


私は顔から火が出そうな思いをしながら、喜多嶋さんの二の腕あたりをばしばしと叩いた。



「もう、ふざけないでください! そんな破廉恥なことばっかり言って、もう、もう………本当にどうしようもない人ですね!」



精一杯の非難をこめて睨みあげてみたものの、喜多嶋さんは、


「出た、雛子の必殺ハレンチ攻撃!」


と嬉しそうに爆笑している。



なんなの、この小学生の男の子みたいな人は。


三十過ぎのいい年した大人の男とは思えない。



こっちがどんなに真剣に訴えても、この人には全く伝わらない。



「………もういいです。喜多嶋さんに分かってもらおうとした私が馬鹿でした」



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