29歳、処女。
ここは自分が大人にならねば、と思って、説得を諦めてため息をつくと、喜多嶋さんは笑いすぎで涙の浮いた目尻をぬぐいながら、



「なんだよ。雛子のくせに、生意気なこと言いやがって」



とさらに笑った。



「ま、分かったならいい。さあ、行くぞ。まずは会計だ」



喜多嶋さんはあっけらかんと言い、私の腕を引いてすたすたと歩き出した。



「えっ、ちょ、ちょっと待ってください! 着替えがまだ………」


「あ? お前たった今言ったじゃないか。『もういいです』って」


「ちがっ、それは、喜多嶋さんのおふざけをやめさせようとするのを諦めたって意味で、決してこの格好をしたまま外に出ることを了承したっていう意味ではな」


「あーもう本当にグチグチうるせえやつだな、黙ってついてこい!」



喜多嶋さんが私の言葉を遮ってしまったので、しかたなく黙る。


でも、嫌だ。やっぱり恥ずかしい。

こんな、露出の多いカットソーを着て、しかも膝が丸見えの、ストッキングさえ履いていない脚で外に出るなんて!



「お前また頭の中でごちゃごちゃ考えてんな?」



私の顔色から心の中の葛藤を察知したのか、喜多嶋さんがレジに向かって歩きながら、ちらりと振り向いてそう言った。




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