29歳、処女。
………どうしてだろう。


言いたいことは山ほどあるのに、なぜだか、声が出せない。



「せっかく多少は色気のあるカッコしても、中身がガキんちょじゃなあ」



からかうように笑う喜多嶋さんの声が、その吐息が、

私の頬に、首筋にかかる。



「このへんなんかも、けっこう色っぽいのに、残念………」



喜多嶋さんの指が、私の鎖骨をするりとなぞった。



私はやっぱり何も言えない。


耳の中で、どくんどくんと脈打つ音が響き渡って、喜多嶋さんの言葉がよく聞こえなくなってくる。



………そうか。

わかった。

なんで声が出ないのか。


鼓動が早すぎて、息が苦しいくらいで、私はもう、しゃべることすらできないのだ。


そう気がついたとき。



「………おい、雛子? 大丈夫か?」


「………」


「雛子、どうし―――」



気がついたときには、私の身体は床に向かってぐらりと傾ぎはじめていた。




< 43 / 97 >

この作品をシェア

pagetop