29歳、処女。
むっとしつつも、いつもすみません、と謝ろうとしていると、


「ちょっと待ってろ」


と喜多嶋さんが顔を引っ込めてしまった。


訳も分からないまま、言われた通りにベッドの上で待つ。


少し離れたところから、カチャカチャと音がしていた。


なんの音だろう、と思っているうちに、スリッパで近づいてくる足音が聞こえてくる。



ドアが再び開いて、また喜多嶋さんが顔を出した。


そのまま中に入ってきた喜多嶋さんの手には、マグカップが握られている。


ぼんやり眺めていると、


「気分悪いとかないか?」


と訊ねられたので、


「大丈夫です」


と頷く。



喜多嶋さんは薄く笑って、デスクの前に置かれていた椅子をベッドの横に持ってきて腰かけた。



「ほら、飲め」



喜多嶋さんはそう言って、私にマグカップを差し出してくる。


てっきり喜多嶋さんが自分で飲むコーヒーか何かだと思っていたので、私は「えっ?」と驚きの声をあげて喜多嶋さんを凝視してしまった。



「なんだよ、いらないのか?」



喜多嶋さんが不服そうに眉をひそめたので、私はあわてて、



「いえいえ、滅相もない! いただきます」



とカップを受け取った。




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