29歳、処女。
ひとくち飲み干す。


熱くはなく、でもぬるくもなく、すごく飲みやすい。


口の中にほんのりと甘く優しい味が広がった。



「………おいしい」


「そうか」


「温度も甘さも絶妙です」


「そりゃ、俺が作ったんだから当然だろ」



喜多嶋さんは悪びれずに言った。



「自分で言っちゃうんだ」


「悪いか? 俺は気遣いのできる男だからな」



あんなにデリカシーのない無神経なことばかり言っているのに、よくもまあ、『気遣い』なんて言えるな。


そう思ってから、いや、そうでもないかも、と思い直す。



喜多嶋さんは確かに、思ったことは何でも口に出してしまうような人だけど。


でも、実は、いつも周りに気を配っていて、些細なことにもすぐに気づいてくれるのだ。



たとえば、上司が誰かに頼もうとしていた仕事を、「どうせ俺がやるのが早いと思ったんで、先にやっときました」とすでに済ませていたり。


会議の時に同期の人が鋭い質問をされて言葉に詰まってしまったときに、即座に助け船を出したり。


後輩が仕事を請け負いすぎていっぱいいっぱいになっているのを察知して、「間に合いそうになかったらギリギリになる前に言え、馬鹿」と仕事を半分もらってあげたり。



そういう姿を何度も見たことがあった。



つまり、口は悪いけど、いつも周りに気をつかってサポートしてくれているのだ。



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