29歳、処女。
私自身も、何度も助けられている。


取引先と電話をしていて対応に困った時にさらりと電話を代わってもらったり、

急ぎの仕事を頼まれたものの、前の担当者が使っていたファイルがどこにあるか分からなくて泣きそうになっていた時に、いつの間にかどこかから探し出して来てもらったり。


まあ、でも、そういう時は必ず、


「お前が下手な対応して問題になったらどうする、すぐに上司に相談しろ!」とか、

「分からないことはすぐに聞け、馬鹿! 大事になる前に!」とか、


めちゃくちゃ怖い顔でのお小言がついてくるんだけど。



でも、たとえ口ではどんなにきつい言い方をしていても、顔は怖くても、相手のことを思ってやってくれているのだ、と今更ながらに思う。



「………喜多嶋さんて、実は良い人ですよね」



思わず正直な感想を口にすると、喜多嶋さんは面食らったように目を丸くした。



「は? どうした、急に」


「いえ、なんか、そう思ったので………今日だって、せっかくのお休みなのに、私のために服屋さんに………」



そう言いながら何気なく視線を落として、私はぎょっと動きを止めた。


青いニットのカットソーに、スカート。



「………きっ、喜多嶋さん! 大変です!」


「あ? 今度は何だよ」


「私、お店の服、着たまま出て来ちゃいました!」



これでは万引きも同然だ、と青ざめて報告すると、喜多嶋さんは首をかしげた。



「当たり前だろ、買ったんだから」




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