29歳、処女。
*
トイレを出たところで、私は思わず足を止めた。
「高梨さん、大丈夫?」
男子トイレの前に立ち、整った顔を心配そうにしかめながらこちらに目を向けている、相羽さんの姿を発見したからだ。
「あっ、相羽さん、どうして………」
しどろもどろになりながら訊ねると、相羽さんが近づいてきた。
「いや、戻りが遅かったから、もしかして具合悪くなっちゃったのかと思って」
「ええっ、すみませんすみません、大丈夫です!」
私はぶんぶんと首を振った。
まさか、鏡に映った自分の皺を見て落ち込んでいた、なんて言えるわけがない。
「そう? なら良かった。ごめんね、出待ちみたいになっちゃって。気持ち悪いよね」
相羽さんは爽やかに微笑みながら、照れたように軽く頭を掻く。
そんな仕草さえも決まっていて、格好いい。
「気持ち悪いとか、ないない、ないです! こちらこそ、ご心配おかけしちゃってすみませんでした」
必死で謝りながら、必死すぎて引かれてないか、気になって仕方がない。
「いや、平気ならいいんだ。じゃ、先に戻るね」
去り方まで爽やかな相羽さん。
私はうっとりとその後ろ姿を見送った。