29歳、処女。







トイレを出たところで、私は思わず足を止めた。


「高梨さん、大丈夫?」


男子トイレの前に立ち、整った顔を心配そうにしかめながらこちらに目を向けている、相羽さんの姿を発見したからだ。


「あっ、相羽さん、どうして………」


しどろもどろになりながら訊ねると、相羽さんが近づいてきた。


「いや、戻りが遅かったから、もしかして具合悪くなっちゃったのかと思って」

「ええっ、すみませんすみません、大丈夫です!」


私はぶんぶんと首を振った。

まさか、鏡に映った自分の皺を見て落ち込んでいた、なんて言えるわけがない。


「そう? なら良かった。ごめんね、出待ちみたいになっちゃって。気持ち悪いよね」


相羽さんは爽やかに微笑みながら、照れたように軽く頭を掻く。

そんな仕草さえも決まっていて、格好いい。


「気持ち悪いとか、ないない、ないです! こちらこそ、ご心配おかけしちゃってすみませんでした」


必死で謝りながら、必死すぎて引かれてないか、気になって仕方がない。


「いや、平気ならいいんだ。じゃ、先に戻るね」


去り方まで爽やかな相羽さん。

私はうっとりとその後ろ姿を見送った。



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