29歳、処女。
「………え? 買いましたっけ?」



あいまいな記憶をたどるように考えを巡らせた結果、やっぱり、買う前に気を失ってしまったと思い出した。



「やっぱりお金、払ってませんよ!」


「払ったよ」


「うそ、記憶にないです」


「そりゃそうだろ、お前はアホ面して倒れてただけだからな」


「え、じゃあ………」


「俺が払ったんだよ」


「えっ、なんで?」



思わず正直な疑問を口にする。


すると喜多嶋さんが顔をしかめた。



「じゃあなんだ、あの場で身ぐるみ引っぺがして丸裸にして着替えさせてくれば良かったのか」


「ええっ、いやいやいや、ちがいます! ごめんなさい!」



慌てて謝ると、喜多嶋さんは満足げに笑った。



「まったく、世話のかかるやつだよ」


「本当にすみませんでした………お金、いくらでしたか」


「は?」



私はベッドの枕元に置かれていた自分のバッグをとり、財布を取り出す。


中身を確認して、ほっと一息つく。



「よかった、朝ちゃんとお金おろしてきて。これだけあれば足りますよね、たぶん」


「アホか。いらねえよ、金なんか」



平然と喜多嶋さんが言ったので、私は目を見張って見上げる。



「え、なんでですか? 払いますよ、私の服だし」


「俺が選んだ服だろ」


「でも、私が着るんだし」



口答えしていると、いきなり鼻をつままれた。



「ごちゃごちゃうるせえな。黙って奢られてろよ」



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