29歳、処女。
相羽さんは、同じ部に所属している先輩だ。

業務の内容が近いこともあって、入社したころからいつも仕事を教えてもらったり、なにかと声をかけてもらったりしていた。


いつも微笑みを絶やさず、穏やかで優しくて。

不機嫌そうな顔をしているのも、声を荒げた姿も、一度も見たことがない。

しかも仕事もものすごく出来て、周りから一目置かれていて、上司からも信頼されている。


絵に描いたような素敵な男性。


当然のように、私は出会ってすぐに彼を好きになった。

それ以来6年間、ずっと片想いをしている。


彼には恋人がいるという噂もあるけど。

私なんて彼の眼中にはないことくらい、分かっているけど。

一日に一度、言葉を交わせるかどうかだけど。


それでも私は相羽さんに憧れている。


そんな人に心配されて、申し訳ないやら嬉しいやら………頬が緩むのを止められない。



「ぷっ。何ひとり百面相してんだよ、雛子」

「………えっ?」


席に戻る途中、いきなり声をかけてきたのは。


「ききき喜多嶋さん!?」


驚きのあまり、どもった上に声が裏返ってしまった。


「キキキキタジマじゃない、俺はキタジマだ」

「………すみません」


壁にもたれて腕を組む、という横柄な態度で私の前に立ちはだかっているのは、同じ部の先輩、喜多嶋さんだ。



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