29歳、処女。
鞄を受け取って、朝着てきた服が畳んで入れられている紙袋も受け取ろうと手を伸ばす。


すると喜多嶋さんが「持つよ」と言った。



「え?」


「俺も一緒に出るから」



え、と訊ねかえそうとする私をよそに、喜多嶋さんは紙袋をもったまま玄関に向かって歩き出した。


もしかして、送ってくれるということだろうか。

それは申し訳ない。

そんなに遅い時間でもないし、最寄り駅の場所さえ教えてもらえれば、一人で帰れる。


出掛けた先で倒れてしまってここまで連れて来てもらったことを考えると、これ以上迷惑はかけたくなかった。



「あの、大丈夫です………」



すたすたと歩く背中に声をかけると、喜多嶋さんがちらりと振り向き、



「コンビニ行きたいからさ」



と横顔で言った。



「あ、そうなんですね」



別に私を送ろうとしたわけじゃなかったのか。


自分の勘違いに頬が熱くなった。



「なにぼんやりしてるんだよ、行くぞ」



喜多嶋さんが怪訝そうな顔で玄関に立っている。


私は慌てて靴を履いた。




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