29歳、処女。
喜多嶋さんが口を開きかけたとき、店員が「お待たせしました」と料理を運んできた。



「あ、ビールおかわり」



喜多嶋さんがジョッキを店員に手渡す。


それから、



「雛子、お前は?」



と訊ねてきた。


私の飲んでいた一杯目のビールは、残り三分の一ほど。



「あ、じゃあ、ウーロン茶ひとつ」



と店員に言うと、喜多嶋さんが「早!」と声をあげた。


店員が立ち去ってから、



「お前ってさ、飲み会でもいつもあんまり飲まないよな。そんなに酔ってる感じもしないのに」



と私の顔を覗きこんでくる。



「顔に出にくいだけで酔っ払ってんのか?」


「あ、いえ、たぶんそんなに酔ってはないです」


「だよな。口調もしっかりしてるし。酒弱そうでもないし」


「そうですね、そんなに弱くもないです。うちの両親ともけっこう飲めるし」


「じゃあもうちょっと飲めるんじゃねえの?」


「あー………はい、飲めるか飲めないかで言えば、たぶんまだ大丈夫、なんですけど」


「じゃあ飲めばいいじゃないか」


「………はあ」



喜多嶋さんの言う通り、私は飲み会などでは一杯か二杯しか飲まない。


お酒に弱くてすぐに酔ってしまうとか、そういうわけではないんだけれど、あまり飲まないようにしているのだ。



「あ? なんか煮え切らない返事だな。あ、酒、嫌いなのか?」


「いえ、そういうわけでもない、んですけど」



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