29歳、処女。
私としてはかなり勇気を出して打ち明けたのだ。


記憶を飛ばしてしまったなんて恥ずかしいし、お酒を飲みすぎたというのも恥ずかしいし、先輩にどんな失礼なことを言ってしまったのかと考えるだけでぞっとする。


だから、消したい過去なのだ。



―――それなのに。



「なんだそれ、めっちゃ気になる! 酔うとどうなるんだ? よし、今日は俺が奢ってやるから、飲め!」



喜多嶋さんは目をきらきらと輝かせて、嬉しそうにそんなことを言い出した。


しかも、私が唖然としているうちに、喜多嶋さんは勝手に白ワインをボトルで頼んでしまった。



「よし、今日はこれを二人で空けるぞ。分かったな?」


「ええっ?」


「ノルマだ、ノルマ。安心しろ、俺は酒好きだから、まあ半分以上は飲めるよ」


「でっ、でも」


「『でも』『だって』禁止!」


「無理ですよ~」


「『無理です』もナシっていつも言ってるだろ! 『最大限努力します』だろ」


「………」



だめだ。


喜多嶋さんは一度言い出したことは簡単には曲げないのだ。



「………もう、どうなっても知りませんよ? もしものすごく失礼なこと喜多嶋さんに言っちゃっても怒らないでくださいよ?」


「あーわかったわかった、怒らないよ。だから、付き合え」


「………分かりました」



私は大きなため息をつきながら答えた。



「安心しろ。責任はとってやるから」



喜多嶋さんはにやりと笑い、私のグラスになみなみとワインを注いだ。



< 69 / 97 >

この作品をシェア

pagetop