29歳、処女。







身体がぽかぽかして、頭がふわふわする。


視界はもやがかかったようにぼんやりしている。

そのぼやけた視界の真ん中に、やけに整った端正な顔があって、なぜか呆れ返った表情をしていた。



「ちょっとお、喜多嶋さーん。なに変な顔してるんですかー。せっかくのかっこいい顔が台無しですよー?」



正直な感想をのべると、喜多嶋さんはさらに顔をしかめる。



「あはは! なんですかその顔。仕事でもなかなかしない顔じゃないですか」


「………おい、雛子」


「なんですかー?」


「………没収」


「へ?」



首をかしげると、喜多嶋さんがいきなり私の目の前のグラスを取り上げた。



「あっ、何するんですか! まだ飲み足りないのにー」


「もう駄目だ!」


「なんでですかー。せっかくいい気分になってきたのにー」



私はグラスを取り戻そうと手を伸ばしたけど、喜多嶋さんがぺしりと私の額を叩いた。



「とにかく、駄目だ!」


「なんでー? 喜多嶋さんが飲めって言ったじゃないですかー」



まだまだ飲みたい私は、むっとして唇を尖らせる。



「俺が責任とるとか言ってたのにー」


「………そんなことだけはしっかり覚えてやがる」



喜多嶋さんは小さく舌打ちをした。



< 70 / 97 >

この作品をシェア

pagetop