29歳、処女。
*
身体がぽかぽかして、頭がふわふわする。
視界はもやがかかったようにぼんやりしている。
そのぼやけた視界の真ん中に、やけに整った端正な顔があって、なぜか呆れ返った表情をしていた。
「ちょっとお、喜多嶋さーん。なに変な顔してるんですかー。せっかくのかっこいい顔が台無しですよー?」
正直な感想をのべると、喜多嶋さんはさらに顔をしかめる。
「あはは! なんですかその顔。仕事でもなかなかしない顔じゃないですか」
「………おい、雛子」
「なんですかー?」
「………没収」
「へ?」
首をかしげると、喜多嶋さんがいきなり私の目の前のグラスを取り上げた。
「あっ、何するんですか! まだ飲み足りないのにー」
「もう駄目だ!」
「なんでですかー。せっかくいい気分になってきたのにー」
私はグラスを取り戻そうと手を伸ばしたけど、喜多嶋さんがぺしりと私の額を叩いた。
「とにかく、駄目だ!」
「なんでー? 喜多嶋さんが飲めって言ったじゃないですかー」
まだまだ飲みたい私は、むっとして唇を尖らせる。
「俺が責任とるとか言ってたのにー」
「………そんなことだけはしっかり覚えてやがる」
喜多嶋さんは小さく舌打ちをした。