29歳、処女。
「………お前なあ。今、自分がどんな顔してるか、分かってるか?」


「へ? 顔? なんか変ですか?」



頬に手を当ててみる。


熱い。ということは。



「もしかして、すごい赤くなってます?」


「赤い。真っ赤っかだ。しかも………」


「しかも?」


「………お前、今ならたぶん、すぐ彼氏できるぞ」



いきなり話題が変わったので、私はわけがわからず首をひねった。



「え? なんの話ですか、急に」


「俺が言いたいことが分からないか」



喜多嶋さんが苛々したように言う。


いつもなら怖くて縮み上がってしまうんだろうけど、酔いのせいか、怖いとは思わない。


いや、ちがうか。

最近は喜多嶋さんのこと、怖いと思わなくなってる気がする。


話す機会が増えて、喜多嶋さんの色んな顔を知って。

口が悪くて怖いだけじゃなくて、優しくて気づかいのできる人だと分かったから。



だから私は臆することなく、正直に答えられる。



「ぜんぜん分からないです」



喜多嶋さんが、今度は深くため息を吐き出した。



「馬鹿め。行間を読め、行間を!」


「………?」



だめだ、頭がぼんやりしていて、思考力がない。


だいぶ酔ってるな、私。



「だから、その顔なら彼氏できるっつってんだよ」


「………彼氏なら、できたことありますよ?」



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