29歳、処女。
「付き合ったのは、一人か?」


「えっ………いえ、二人です、一応」


「………ほう。面白そうな話じゃねえか。ちょっと聞かせろ」



喜多嶋さんはそう言って、たまたま通りかかったベンチに腰かけた。


隣に座るように手振りで示されて、私もふわふわしたまま腰を下ろす。



すると、喜多嶋さんがぱっとスーツを脱ぎ、私の膝にかけてきた。



「えっ? 大丈夫ですよ、寒くありませんよ」



驚いて隣を見上げると、喜多嶋さんは苦虫を噛んだような顔をしていた。



「………アホか。寒いからじゃねえよ」


「え?」


「お前なあ、スカートで座るときは裾に気をつけろ。無防備すぎるんだよ!」



なるほど、と私は頷いた。


たしかに私は膝よりも上に裾がくるようなスカートをはいたことがなかったので、座るときも特に気にせず腰をおろしていた。


でも、膝上のスカートだと、腰かけると裾があがって太ももが見えてしまうわけだ。



「さすがです、喜多嶋さん! 男性なのにスカートの心得まで知ってるなんて。勉強になります」



頭をさげると、喜多嶋さんは呆れたように肩をすくめた。



「それはまあいい。さっきの話の続きだ。お前の恋愛遍歴を聞かせてみろ」


「ええ、なんで………」


「うるさい、黙って話せ。いままでの恋愛話を聞けば、お前のどこに問題があるか分かるだろ」


「ああ、なるほど。そういうことなら」




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