29歳、処女。
そういうわけで、私はなぜか、これまでの人生を喜多嶋さんの前で振り返ることになってしまった。


酔いのせいで血迷ったとしか思えない。



「高校生までは、誰とも付き合ったことありませんでした。勉強と部活で忙しかったし、友達といるのが楽しかったし、それにうちは門限も厳しくて。

大学生になったとき一人暮らしを始めたのがきっかけで、ちょっと解放されたのもあって、告白されてOKしました。初めての彼氏で嬉しかったです」


「………まあ、そうだろうな」


「はい。でも、あの………付き合いはじめてすぐに、キス、されそうになって」


「ほう」


「そんな経験が一度もなかったので、怖くなって逃げて、その人とはそれっきり………」


「なるほど」



喜多嶋さんは腕をくんで大きく頷いた。



「それで、そのときのことがちょっと、トラウマというか、男の人がちょっと嫌になっちゃって………恋愛はまだいいかな、って大学の頃は思ってました」


「ふうん………」



いきなり手が伸びてきた。


なんだろう、と思っていると、ぽんぽんと頭に手をのせられた。



「ま、変な男につかまって運が悪かったな」



思いがけず優しい微笑みと口調で言われて、心臓が跳ねるのが分かった。



私の心臓は、最近どうかしている。

喜多嶋さんといると、本当に落ち着きがない。



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