29歳、処女。
「………それで、あの」



自分の動揺をごまかすように、私は俯いて言葉を続けた。



「大学時代はもう誰とも付き合わなかったんです。それに、社会人になってしばらくの間も、仕事に慣れるので一杯いっぱいで、恋愛どころじゃなかったし」


「うん」


「でも、25歳を越えたあたりから、親から『そろそろ結婚を考えないと』とか、『相手はいないのか』とか言われるようになって………」


「ああ、まあ、田舎の親ならそうだろうな」


「で、自分でもちょっと焦り始めて………その頃ちょうど、大学時代の友達から、食事会みたいなのに誘われて。

合コンみたいなものって何となく分かったんですけど、学生の頃はそういうのは断ってたんですけど、でも、その時は焦りもあったので、参加してみたんです」


「…………」



喜多嶋さんはなぜか押し黙った。


相づちがないのを心もとなく思いつつも、私は話を続ける。



「そこで、ある人に会って、連絡先を聞かれて。何回か食事に行ったりして」


「………」


「ある日、映画を観に行った帰りに、付き合おうって言われて………自分の気持ちはまだ分かってなかったんですけど、でも、いい機会だと思って、付き合ってみることにしました」



その時のことを思い出すと、じりじりと後悔の念が湧いてきた。


考えなしだったと思う。


好きかどうかも分からないのに、軽はずみにOKしてしまったのだ。



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