29歳、処女。
「彼はそう言って、すぐに私から離れました。それから口数も急に少なくなって………居たたまれなくなったので、私はそのまま帰りました」


「はあ? そいつはそこで黙ってお前を帰したのかよ」


「はい………その気がなくなったって言って」


「………」



喜多嶋さんが眉をひそめて黙りこんだ。


沈黙が居心地悪くて、私は話を続ける。



「彼とはそれから会ってません。メールで『別れよう』って来たので、『分かりました』って返して、それきりです」



喜多嶋さんはやっぱり押し黙ったまま、険しい表情で私の話を聞いている。



「しばらくして、彼と出会った合コンに呼んでくれた友達から、教えてもらいました。

彼は、『あの女、あの歳で処女だった。ありえない、気持ち悪い。天然記念物か』って言ってたらしいです」



それを聞かされた時の気持ちは、いまでも忘れられない。


胸をえぐられるってこういうことか、と思った。


青ざめるくらいショックだった。



「………あと、彼が言うには、『アラサー処女とか重い。すぐ結婚とか言い出しそうで面倒だったから、別れた』って………」



そう言った途端、いきなり喜多嶋さんが動いた。


え、と思った次の瞬間には、喜多嶋さんの腕が、私の身体の両側に伸びてきて、



「え………っ」



抱き締められていた。




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