29歳、処女。
「おい、雛子。なにぼーっとしてんだよ? トイレ終わったなら早く席に戻れよな。みんなに余計な心配かけるな、バカ」
「はい! 申し訳ありません」
「………ったく………」
本当に怒りっぽくて、口うるさくて、怖い人だ。
相羽さんとは本当に正反対。
だから、私は喜多嶋さんが苦手だ。
「お前は返事は良いが、反省ってものが足りない。基本的にぼーっとしてるしな」
席に戻る道すがら、喜多嶋さんがさらにお説教を続けてくる。
私は神妙にはい、はい、と頷きながら、本当に怖いし苦手だなあとつくづく思っている。
「―――ところでさ、雛子」
それに、馴れ馴れしく下の名前で呼び捨てにしてくるところも、苦手。
「お前って、もしかして、処女?」
話し方もぞんざいで乱暴で、相羽さんとは全然………ん? いま、なんて?
ぽかんとして顔を上げると。
「は? なんだお前、またぼーっとして聞いてなかったな?」
喜多嶋さんが眉をひそめて不機嫌そうに睨みおろしてくる。
申し訳ありません、もう一度お願いします、と反射的に呟くと、喜多嶋さんがぐいっと顔を近づけてきた。
「お前、処女なの?」
「………は……?」
今度は、はっきり聞こえた。
でも、まさか、そんなことを言われるはずがない、と思って、訊き返してしまった。