29歳、処女。
「水、飲むだろ。用意するから、お前は座っとけ」



そう言われて、リビングに腰を下ろしたものの、落ち着かない。


心臓が跳ねすぎて痛いくらいだった。

顔も熱い。

思わず両手で覆って、ごしごしとこする。



「なにやってんだよ」



いきなり声をかけられてびくりと顔をあげると、すぐ後ろにグラスを持った喜多嶋さんがあきれ顔で立っていた。



「ははっ、ひでえ顔。化粧ぐちゃぐちゃ」


「あ……しまった、思わず」



きっとひどい顔になっている。


恥ずかしくて俯こうとしたら、顎をとらえられた。


くい、と上向かせられる。


視界が喜多嶋さんの顔でいっぱいだ。



「直してやろうか」



唐突に言われて、動揺と緊張で混乱した頭ではすぐには理解できない。


目の前の整った顔をぼうっと見つめていると、喜多嶋さんが続けた。



「化粧直しだよ」



喜多嶋さんが、いつもの不敵な笑みでにっと笑う。



「ファッションと髪は合格。だから、最後のレッスンは、メイクだ」



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