29歳、処女。







「………あの、喜多嶋さん」


「ん?」



目の前で私の化粧ポーチを開け、どこかうきうきとした表情を浮かべている喜多嶋さんに、おそるおそる訊ねる。



「喜多嶋さんって、メイク、できるんですか」



もしかして美容系の学校に通っていたことがあるのか、とか、実は女装の趣味が!? とか、色々と頭の中で考えてしまう。


でも、返ってきた答えは。



「やったことねえけど、まあ、なんとかなるだろ」



喜多嶋さんはけろりと言って、アイシャドウを取り出した。



「ええっ? 大丈夫ですか………」


「安心しろ。俺は図画工作の成績は4か5しか取ったことないから」


「ええ………それってなんの関係が」


「化粧と絵なんて同じようなもんだろ」


「初耳です」


「つべこべうるさいな。俺が言うんだから大丈夫なんだよ」



喜多嶋さんはにんまりと笑って、チップにシャドウをとった。



「目、つぶれ」


「はい………」



やっぱり逆らえない。


喜多嶋さんの言葉には不思議な力があるみたいだ。


有無を言わせない、でも、きっとこの人の言う通りにすれば何とかなる、と思わせる力。



目を閉じると、瞼にチップが触れるのを感じた。



「………んん、くすぐったいです」


「耐えろ」


「もう………」


「お、けっこうくっきり色が出るんだな」



喜多嶋さんはやけに楽しそうだ。


ぜったい面白がってる、と思いながら、私はされるがままになる。



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