29歳、処女。
喜多嶋さんは焦れたように眉根を寄せて、「だから………」と続ける。



「だから、お前、処女? バージンなの? 清らかな乙女? つまり、セックス未経験者?」


「ちょ、ちょっと、喜多嶋さん!!」



遠慮なく大きな声で続けざまに言われて、私は慌てて喜多嶋さんの口を両手で塞いだ。



「なっ、なに考えてるんですか! こんな公衆の面前で、そんな………破廉恥な!」


喜多嶋さんは塞がれた口でむむむ、と唸っている。

息ができなくなったら困ると気がついて、私は慌てて「ごめんなさい!」と手を外した。


喜多嶋さんは険しい表情で息を吐き、私をにらみつけてくる。



「………雛子、お前なあ………いつもお世話になってる先輩の口ふさぐとか、いい度胸してるじゃないか」


「も、申し訳ありません………」


「ってか………くくっ」



怒っていたはずの喜多嶋さんが、突然、可笑しそうに笑いを洩らした。



「………なんですか?」


「いや、お前、今時『ハレンチ』って。いつの時代の人間だよ?」



笑いを噛み殺しながら言われて、頬が熱くなるのを感じる。




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