世界が止まる1分間
学校から距離にしてわずか300m。

短いその距離が、さらに短く思えるほど、踏み出す一歩が貴重に思えた。

ついに駅が見えてきて、雪奈さんは「ここでいいよ」と手を振って別れたのだけど、振り返って歩き出した僕の名前を呼んだ。

「何?」

雪奈さんは僕の目をまっすぐ見つめながら言った。


「___え?」



その瞬間、雑踏の音は消えた。

申し訳なさそうな顔で雪奈さんは駅に向かって歩き出す。

ただ僕はそれを見ていることしかできなくて、ただ頭の中で最後の言葉を反芻していた。


『今日、転校するの』



神様は、残酷だ。









次の日、僕は重い足取りで教室の戸を開けた。

今日から学校に雪奈さんはいない。僕は想いを告げることもできなかったのだ。

けれど僕の目に映ったのは、友達と楽しそうに話す雪奈さんの笑顔だった。

なぜ、どうして?この学校に通うのは、昨日が最後だったはずなのに。


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