世界が止まる1分間
「雪奈さん!」

僕は慌てて彼女を人気のない廊下に連れ出した。

雪奈さんは驚いたように「どうしたの?」と言った。

「それはこっちの台詞だよ。雪奈さん、転校したんじゃなかったの?昨日一緒に帰ったとき、確かにそう言って…」

「昨日は伊月くんと一緒に帰ってないよ?」

何を言ってるの、と言わんばかりに雪奈さんは首を傾げる。

「昨日は図書当番だったから友達と帰ったよ?」

「え?」

「伊月くん、なに言ってるのか分からないよ。私、もう行くね」

雪奈さんは友達の輪の中に戻っていった。

どういうことだと首を傾げていると花音が話しかけてきた。

「おはよ…って、どうしたの?」

「おはよう、花音。ちょっとね」

「ふーん?とりあえず今日の1限の宿題教えてくれない?分からなかったの」

「いいよ、どこ?」

「数学のp.37の問3」

「え、p.37の問3?」

それは昨日、数学の山根先生が授業時間のほとんどを使って懇切丁寧に解説してくれたところだ。

何を、花音は言ってるんだ?予習の範囲が違ってる。本当の予習のところは…。

慌てて自分のノートを捲って、僕は呆然とした。

「そんな、まさか」

僕も宿題では解けなかったp.37の問3が、ノートのどこにも書かれていない。おかしい。きちんと書き写したのに。
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