時涙ー携帯が繋ぐ奇跡ー
城下町の雰囲気は城内とは大きく違った。
どちらかと言えば、私には城下町の方が性に合っている気がする。
「あ、団子も売ってる。」
「買ってきてあげますよ。」
とても美味しそうな三色団子が売られているのを見て呟くと、半兵衛が団子を買いに行ってくれた。
この時代のお金に関してはよく分からないが、何の惜し気も無しに物を奢る姿は太っ腹だと思う。
「はい、団子。」
「ありがとう、半兵衛。」
そう言って手渡された団子は、ツヤがあってとても美味しそうだ。
早速一口食べてみるとする。「あ、美味しい!」
「なら良かったですよ。」
美味しい美味しいと言って団子を食べ進める私を見て、半兵衛はどことなく嬉しそうだ。
半兵衛も美味しそうに団子を食べている。
「さぁて、団子も食べ終わったことだし…城下町を堪能しますか!」
最後の一口を食べ終わった半兵衛が立ち上がって言う。
城下町の店や人々、そう言ったことに興味のある私からしたら、とても魅力的な一言だった。
「うん!沢山色んなとこ見たい!」
そう言って私も立ち上がると、じゃあ着いて来て。と言って半兵衛が私の手を取る。
城下町には色々な物があって、驚きの連続だ。
教科書に載っているまんまの物もある。
そんなこんなで、城下町を楽しんでいると、あっという間に日が暮れてしまっていた。
「あ、もうこんな時間?」
「本当だ。官兵衛さんに怒られるかもしれないから、帰った方がいいかもね…。」
そんな会話をした後、二人で城への帰路を急ぐ。
帰ると案の定、半兵衛は官兵衛さんにお叱りを受けた。
あの半兵衛でも怒られる事ってあるんだ…。なんて思いつつ、先に行っててください。と言う半兵衛の合図通りに部屋へ戻る。
すると、暫くしてから半兵衛が帰ってきた。
「官兵衛殿、結構怒ってました。けど、無理もないですね。」
半兵衛の雰囲気はいつもと変わらない。
とてもじゃないが、怒られたと言う感じではなかった。
「はぁ…、じゃあそろそろ寝ましょ…茜。」
「早いね、疲れた?」
そう言って布団を敷く半兵衛を見て、ふと尋ねる。
もしかしたら、色々案内したせいで疲れてしまったのかもしれない。
「違います。ただ、ちょっと…。」
「……?」
半兵衛の濁した言葉が気になったが、他にも気になった事と言えば、布団のことだ。
見た感じ…布団は一枚だけ。
でも枕は二つ……。ああ、要するに同衾…同衾!?
「あー…、布団一枚しか無い、です。」
茫然とする私を見て何かを察したのか、布団に潜り込みながら半兵衛が言う。
半兵衛と寝るのが嫌なわけじゃない。ただ、どうしても緊張する。
そんな布団から離れた位置で固まっている私を見兼ねたのか、半兵衛が掛け布団を少し捲って手招きをする。
流石に躊躇している暇もないので、怖ず怖ずと布団の中へと入る。
「お、お邪魔します…。」
「大丈夫、何もしないですから。」
別に、そう言うことを警戒していたわけじゃないのだが…そんなことを言われると余計に緊張する。
私が布団に入ってきた事を確認したのか、ギュッと半兵衛に抱き寄せられる。そうじゃなくても心臓がドキドキと煩いのに、抱き寄せられたりなんかしたら心臓が破裂しそうだ。
自分の心を落ち着かせるため、窓から見える星空を眺める。
現代とは違い、綺麗な星空だ。
星が夜空に散りばめられ、それぞれがキラキラと輝いている。
「綺麗……。」
「何がです?」
「星。」
そう言って夜空を指差すと、半兵衛も一緒に星空を眺める。
「私達の時代、星が殆ど見えないんだよ。」
「ふーん…、こっちでは、晴れた日にいつも見えますよ?」
電気も何も無いのに、月や星の明かりでお互いの顔が分かるくらいに明るい。
(現代では電気なんて当たり前にあるからなぁ…。月や星だけでこんなに明るいなんて知らなかった…。)
相変わらずぼんやりと星空を眺めていると、知らない間に半兵衛の顔が近くにあることに気付いた。
そしてゆっくりとお互いの唇が重なる。
「は、半兵衛!?」
「何もしないって言ったのに、ごめんね。」
いや、寧ろ好きな人とキスできるなんて嬉しい。
だけど、あまりの恥ずかしさに言葉が出ない。
(…半兵衛は、私が嫌がってると思ってるのかな?)
そう思うと、自然と口が開いていた。
「う、嬉しかった…よ。」
「あ、それ禁句です。本当に止まらなくなります。」
私がそんなことを言うなんて思ってなかったのか、半兵衛は少し驚いた表情をした後、小さく笑って言う。
今、こんなにも元気な半兵衛が…いつか病気で死んでしまうなんて想像もつかない…。
「半兵衛…。」
「ん?」
「好きだよ。」
「…ありがとう、茜。」
私の言葉に優しくそう告げると、半兵衛は「おやすみ。」と言って瞼を閉じる。
私もその後すぐに寝入ってしまった。
翌朝、何かの物音に目を覚ました。
寝ぼけ眼を手で擦りながら起き上がる。すると、先に起きていた半兵衛がそれに気付いた様だった。
「あ、起こしちゃいました?」
「ううん、へーき。」
何やら半兵衛は準備でもしているかのようだった。謎の物音も、きっと半兵衛が何かをした音だろう。
手際良く何かの準備をしていく半兵衛を少し不思議に思ったが、すぐに昨日の官兵衛さんの言葉を思い出した。
(確か、準備は整っているのか?とか言ってたなぁ。何の準備だろう…。)
今、半兵衛がしている準備とは何の準備か気になった私は、軽い気持ちで聞いてみることにした。
「ねぇ、それって何の準備なの?」
「何って、戦ですよ?」
戦…。その言葉を聞いて胸がざわついた。
まさか、中国地方に遠征とかではないだろうか…。
今、半兵衛が生きているこの時代の年は…?既に1581年かもしれない…。
(中国攻めの陣中にて病死…。)
本で読んだ一文が脳裏を過ぎる。
けど、今の半兵衛は少しの咳はするものの…、そんなに酷い感じではない。
大丈夫。きっとまだ時間はある。そう自分に言い聞かせた。
何度も、現代の病院へ連れて行って結核を治してもらえば…。と思ったこともあった。
だけど、現代で既に死んでいることになっている半兵衛には国籍がない。
行ったところで診てもらえず、半兵衛に哀しい思いをさせるに違いない。となると…、私には何も出来ず、ただただ…半兵衛の死を待っているしかない。
「ねぇ、戦って何処に行くの?」
中国だなんて言葉が返って来ませんように…。そう思いながら恐る恐る尋ねた。
「姉川ってところです。」
暫くして半兵衛から返事が返ってきた時、凄く安心した。
姉川なら、まだ大丈夫。半兵衛が生きていられる。
「だから、慌ただしくなると思います。落ち着いたらまた僕から連絡しますから。茜、待っててくださいね。」
「そっか…、分かった。」
確かに、戦中に携帯が鳴ったりしたら、身が入らず勝敗に影響するかもしれない。
正直、暫く連絡がとれなくなるのは寂しいが、私の我が儘を押し付けるわけにはいかない。
「僕なりに頑張ってくるから、応援しててください。」
「うん、応援なら任しといてよ!」
そう自信満々に告げた瞬間、一気に視界が暗くなる。
最初は何が起こったのかと戸惑ったが、すぐに現代へ帰る時間になったのだと気付いた。
(私が過去に来てから、もう24時間経ったんだ…。)
視界が明るくなったと思えば、そこは何時もと変わらない自分の部屋だった。
こうもアッサリと過去と未来を行き来できると、今更ながら…何だか不思議な感じだ。
そんなことを思いながら窓の外を流れている雲を見詰める。
(…半兵衛、頑張ってね。)
気持ちの良いそよ風を肌に感じながら、エールを送った。
どちらかと言えば、私には城下町の方が性に合っている気がする。
「あ、団子も売ってる。」
「買ってきてあげますよ。」
とても美味しそうな三色団子が売られているのを見て呟くと、半兵衛が団子を買いに行ってくれた。
この時代のお金に関してはよく分からないが、何の惜し気も無しに物を奢る姿は太っ腹だと思う。
「はい、団子。」
「ありがとう、半兵衛。」
そう言って手渡された団子は、ツヤがあってとても美味しそうだ。
早速一口食べてみるとする。「あ、美味しい!」
「なら良かったですよ。」
美味しい美味しいと言って団子を食べ進める私を見て、半兵衛はどことなく嬉しそうだ。
半兵衛も美味しそうに団子を食べている。
「さぁて、団子も食べ終わったことだし…城下町を堪能しますか!」
最後の一口を食べ終わった半兵衛が立ち上がって言う。
城下町の店や人々、そう言ったことに興味のある私からしたら、とても魅力的な一言だった。
「うん!沢山色んなとこ見たい!」
そう言って私も立ち上がると、じゃあ着いて来て。と言って半兵衛が私の手を取る。
城下町には色々な物があって、驚きの連続だ。
教科書に載っているまんまの物もある。
そんなこんなで、城下町を楽しんでいると、あっという間に日が暮れてしまっていた。
「あ、もうこんな時間?」
「本当だ。官兵衛さんに怒られるかもしれないから、帰った方がいいかもね…。」
そんな会話をした後、二人で城への帰路を急ぐ。
帰ると案の定、半兵衛は官兵衛さんにお叱りを受けた。
あの半兵衛でも怒られる事ってあるんだ…。なんて思いつつ、先に行っててください。と言う半兵衛の合図通りに部屋へ戻る。
すると、暫くしてから半兵衛が帰ってきた。
「官兵衛殿、結構怒ってました。けど、無理もないですね。」
半兵衛の雰囲気はいつもと変わらない。
とてもじゃないが、怒られたと言う感じではなかった。
「はぁ…、じゃあそろそろ寝ましょ…茜。」
「早いね、疲れた?」
そう言って布団を敷く半兵衛を見て、ふと尋ねる。
もしかしたら、色々案内したせいで疲れてしまったのかもしれない。
「違います。ただ、ちょっと…。」
「……?」
半兵衛の濁した言葉が気になったが、他にも気になった事と言えば、布団のことだ。
見た感じ…布団は一枚だけ。
でも枕は二つ……。ああ、要するに同衾…同衾!?
「あー…、布団一枚しか無い、です。」
茫然とする私を見て何かを察したのか、布団に潜り込みながら半兵衛が言う。
半兵衛と寝るのが嫌なわけじゃない。ただ、どうしても緊張する。
そんな布団から離れた位置で固まっている私を見兼ねたのか、半兵衛が掛け布団を少し捲って手招きをする。
流石に躊躇している暇もないので、怖ず怖ずと布団の中へと入る。
「お、お邪魔します…。」
「大丈夫、何もしないですから。」
別に、そう言うことを警戒していたわけじゃないのだが…そんなことを言われると余計に緊張する。
私が布団に入ってきた事を確認したのか、ギュッと半兵衛に抱き寄せられる。そうじゃなくても心臓がドキドキと煩いのに、抱き寄せられたりなんかしたら心臓が破裂しそうだ。
自分の心を落ち着かせるため、窓から見える星空を眺める。
現代とは違い、綺麗な星空だ。
星が夜空に散りばめられ、それぞれがキラキラと輝いている。
「綺麗……。」
「何がです?」
「星。」
そう言って夜空を指差すと、半兵衛も一緒に星空を眺める。
「私達の時代、星が殆ど見えないんだよ。」
「ふーん…、こっちでは、晴れた日にいつも見えますよ?」
電気も何も無いのに、月や星の明かりでお互いの顔が分かるくらいに明るい。
(現代では電気なんて当たり前にあるからなぁ…。月や星だけでこんなに明るいなんて知らなかった…。)
相変わらずぼんやりと星空を眺めていると、知らない間に半兵衛の顔が近くにあることに気付いた。
そしてゆっくりとお互いの唇が重なる。
「は、半兵衛!?」
「何もしないって言ったのに、ごめんね。」
いや、寧ろ好きな人とキスできるなんて嬉しい。
だけど、あまりの恥ずかしさに言葉が出ない。
(…半兵衛は、私が嫌がってると思ってるのかな?)
そう思うと、自然と口が開いていた。
「う、嬉しかった…よ。」
「あ、それ禁句です。本当に止まらなくなります。」
私がそんなことを言うなんて思ってなかったのか、半兵衛は少し驚いた表情をした後、小さく笑って言う。
今、こんなにも元気な半兵衛が…いつか病気で死んでしまうなんて想像もつかない…。
「半兵衛…。」
「ん?」
「好きだよ。」
「…ありがとう、茜。」
私の言葉に優しくそう告げると、半兵衛は「おやすみ。」と言って瞼を閉じる。
私もその後すぐに寝入ってしまった。
翌朝、何かの物音に目を覚ました。
寝ぼけ眼を手で擦りながら起き上がる。すると、先に起きていた半兵衛がそれに気付いた様だった。
「あ、起こしちゃいました?」
「ううん、へーき。」
何やら半兵衛は準備でもしているかのようだった。謎の物音も、きっと半兵衛が何かをした音だろう。
手際良く何かの準備をしていく半兵衛を少し不思議に思ったが、すぐに昨日の官兵衛さんの言葉を思い出した。
(確か、準備は整っているのか?とか言ってたなぁ。何の準備だろう…。)
今、半兵衛がしている準備とは何の準備か気になった私は、軽い気持ちで聞いてみることにした。
「ねぇ、それって何の準備なの?」
「何って、戦ですよ?」
戦…。その言葉を聞いて胸がざわついた。
まさか、中国地方に遠征とかではないだろうか…。
今、半兵衛が生きているこの時代の年は…?既に1581年かもしれない…。
(中国攻めの陣中にて病死…。)
本で読んだ一文が脳裏を過ぎる。
けど、今の半兵衛は少しの咳はするものの…、そんなに酷い感じではない。
大丈夫。きっとまだ時間はある。そう自分に言い聞かせた。
何度も、現代の病院へ連れて行って結核を治してもらえば…。と思ったこともあった。
だけど、現代で既に死んでいることになっている半兵衛には国籍がない。
行ったところで診てもらえず、半兵衛に哀しい思いをさせるに違いない。となると…、私には何も出来ず、ただただ…半兵衛の死を待っているしかない。
「ねぇ、戦って何処に行くの?」
中国だなんて言葉が返って来ませんように…。そう思いながら恐る恐る尋ねた。
「姉川ってところです。」
暫くして半兵衛から返事が返ってきた時、凄く安心した。
姉川なら、まだ大丈夫。半兵衛が生きていられる。
「だから、慌ただしくなると思います。落ち着いたらまた僕から連絡しますから。茜、待っててくださいね。」
「そっか…、分かった。」
確かに、戦中に携帯が鳴ったりしたら、身が入らず勝敗に影響するかもしれない。
正直、暫く連絡がとれなくなるのは寂しいが、私の我が儘を押し付けるわけにはいかない。
「僕なりに頑張ってくるから、応援しててください。」
「うん、応援なら任しといてよ!」
そう自信満々に告げた瞬間、一気に視界が暗くなる。
最初は何が起こったのかと戸惑ったが、すぐに現代へ帰る時間になったのだと気付いた。
(私が過去に来てから、もう24時間経ったんだ…。)
視界が明るくなったと思えば、そこは何時もと変わらない自分の部屋だった。
こうもアッサリと過去と未来を行き来できると、今更ながら…何だか不思議な感じだ。
そんなことを思いながら窓の外を流れている雲を見詰める。
(…半兵衛、頑張ってね。)
気持ちの良いそよ風を肌に感じながら、エールを送った。