逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~

 気を取り直し、冷蔵庫から牛乳を取り出し、お気に入りのマグカップに注ぎ、電子レンジにかける。

 熱々のミルクにスプーンでハチミツを落とし、よくかき混ぜた後そっと口をつけた。


 ホットミルクが冷えた体をゆっくりと温めてくれる。沙耶はソファーに腰を下ろし、ぼうっと壁を眺める。


 壁には沙耶の唯一の財産と言ってもいい、母の肖像画が飾られていた。

 六号サイズの肖像画はまだ母が結婚する前のもので、今は亡き祖父の作品である。

 思えば祖父も、母も、若くして死んでしまった。祖母も母が亡くなってから後を追うように亡くなってしまった。

 沙耶のことを引き取りたいとまで言ってくれたが、やはり丈夫な人ではなかったのだ。


(お父さんは多分、元気……。私も、今のところは健康そのものだけど、私だって、もしかしたらあと十年、生きられないかもしれない……。そんな可能性はある。)



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