逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~

『沙耶、泣いてるのか……本当に、ごめん……』


 ドアの向こうの基の声が近づいた。


『本気でそう思っていたわけじゃないんだ。ただ、美鶴と、沙耶が、一緒にお茶を飲んで、デートしたって聞いて、どうしようもなく、気がおかしくなりそうなくらい、嫉妬した……馬鹿みたいに嫉妬して、俺に見向きもしない沙耶に、沙耶は悪くないのに……腹が立ったんだ。それで君を、傷つけたくなった。好きだから意地悪するなんて、本当に子供だな。自分でも呆れる……本当に、ワガママで……最低な行為だった……』


(え……今、なんて言ったの……?)


 ドアにもたれていた沙耶は、夢でも見ているのかと不思議な気分で顔を上げた。

 錯覚でなければ、基は『好きだから意地悪する』と言わなかっただろうか。


「好き? 誰が、誰を?」


 怒りも混乱も不安も、限界突破すれば、心の平穏を保つために、人は突然冷静になれるのかもしれない。

 本当に意味がわからなくて、沙耶は問いかけてしまった。

 そして返ってきた答えは、また沙耶を激しく混乱させた。


『……俺が、沙耶を、好きなんだ……』




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