逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~
結局、基は約束通り紳士に振る舞い、沙耶をアパートのドアの前まで送り届けた。
「じゃあまた」
基はにっこり笑ってアパートの階段を下りていく。
その広い背中を見送りながら、沙耶はドアにもたれて、大きく深呼吸した。
(ドライブして、ホーストレッキングをして、海岸でうたた寝して……。私……言わなかったけど、基と一緒にいて、今日一日、本当に楽しかった……。)
こんな時間を何度も過ごせば、当然基のことを好きになるだろう。
いや、最初から……基のことをムカつくとか子供っぽいとか最低だとか思ってはいたけれど、心底嫌いだとか、自分の中でいないものとして扱うとか、そんなふうに思ったことは一度もなかったのだ。
基の気持ちは疑わない。
けれどそれで基の立場が変わるわけではないのだ。
(どうしたらいいの……。)
考えたところで答えは出そうになかった。