逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~
差し伸べられた手
それから沙耶は、日々悩みながらも答えを出すことができず、エールビルで働いていた。
基に会えるのは週に数回である。
忙しい立場であるので当然だが、いないときは彼の机の上に、必ずと言っていいほど、沙耶宛ての手紙が置いてあった。
内容は他愛もないことで、
「今朝は神尾の機嫌が悪かったが、会議が終わった後にケーキを買ってやったら喜んでいた。チョロい」
とか、
「うちの犬が花瓶を割って絨毯が台無しになったけど、嫌いな色だったから内心嬉しかった」
とか、基の日常をうかがわせる、そんな内容である。
いけないと思いつつも、常務室でその手紙を見るのが沙耶の楽しみになった。
基の丁寧できれいな字で書かれた手紙はすべて、お気に入りのきれいな箱に収めて、大事にしまう。
小さな箱はエール化粧品の封筒で、すぐにいっぱいになった。