逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~
そして一度溢れた涙は、自分の意思では止められなかった。
それでも沙耶は嗚咽の中、必死になって「基を傷つけるつもりはなかった、ごめんなさい」と口にするが、沙耶が思いつく限り口にする謝罪の言葉は、基に届かない。
「基……」
街灯の明かりのせいか、基の顔が青白く見える。
「泣かなくていい……沙耶が謝ることは何もない」
どこか遠い目をした基は、まるでやり場がないと言わんばかりに手紙をポケットにねじ込んで、立ち尽くす沙耶の隣を通り過ぎていく。
「もと、い……っ……」
待って、話をさせて、手紙をそんな風にしないで、捨てないで。
沙耶の全身が声にならない声で叫ぶ。
けれど基は足を止めなかった。
その後ろ姿に、沙耶は捨てられた子猫のように震え、うずくまった。