逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~

「志倉さん?」
「えっ、あっ、神尾さん、こんにちはっ……」


 常務室の前で動けなくなっていた沙耶を見て、たった今常務室から出てきた神尾が目を丸くした。


「ああ、今から掃除の時間ですね。よろしくお願いいたします」
「はい」


 腕時計に目を落とし、神尾はにこやかな笑顔で沙耶の隣を通り過ぎるが、何を思い出したのか、肩越しに振り返って沙耶を慌てさせた。


「非常に個人的なことを伺いますが、基様と何かありました?」
「えっ……」


 沙耶はビクッと体を震わせて、なんとも言えない困った表情で神尾を見上げた。


 基から何かを聞いていればこんなことを聞いてくるはずがない。だが、いくら冷やしたとはいえ、おそらく神尾は沙耶の目が腫れていることに気づくだろう。



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