逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~
「毎回、国内外から十人程度の女性を招待しているので、のべ百人の女性が基様の前にズラッと並んだことになります。ですが基様にとって、女性は貴女一人だけ、他の女は誰一人目に入らない。周囲のプレッシャーをのらりくらりとかわしておいでですが、ご両親は訝しがっておいでです」
「……はい」
「ですからそろそろ、お心を決めてくださいね」
神尾の言葉は、どうとでも取れる……身を引けとも、頑張れとも聞こえる、そんな曖昧な空気をはらんでいた。
一瞬うつむいたが、沙耶は唇を引き結び、神尾をまっすぐに見上げた。
「はい。彼を……基を不幸には、しません」
その凜とした佇まいに、神尾は目を細めて、うなずく。
「ええ。お願いします。あの人はああ見えて、懐けば結構可愛らしいところもあるし、基本的に天真爛漫な子供のような人ですから。幸せでいて欲しいと思います」
その基に向けられている優しさに、沙耶はふっと緊張を緩められた気がした。
「神尾さんって基と同い年では?」
「幼い頃から今まで、精神的には、うんと年が離れた兄の気分でいますよ。困ったものです」
神尾は会釈し、そして、くるりと背中を向け歩き始める。
沙耶もその背中に頭を下げた。
「ありがとうございます。神尾さん……」