逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~

 沙耶は大きく深呼吸をし、それからカードリーダーにカードを通して常務室の中に入る。

 だが常務室の奥、正面のデスクに基の姿はなかった。


(いない……?)


 不思議に思いながら周囲を見回すと、ソファーからはみ出し横たわる、基の姿を発見した。


「あ……っ」


 思わず声が漏れ、手のひらで口元を覆う。
 それから沙耶はギュッと奥歯を噛み締め、カートをそのままに、眠る基のそばに近づき、ひざまずいた。


「基……」


 勇気を出して振り絞った声は、自分でも起きて欲しいのか、欲しくないのか、わからないような小さな声だった。

 けれど沙耶の唇は、基の名前を呼ぶことを、切実に欲していた。


「基……ごめんね」


 目を閉じた基は、やはり眠れる王子様で、ハッとするほど美しく、毛並みの良い獣のようである。



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