逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~

「行こう」
「えっ……」


 行くとはどこに行くのか。
 なぜ、基はすべてを捨てようとしているのか。
 訳が分からず、沙耶は言葉が出ない。


 けれど基は、ふと思い出したように胸からエール化粧品の社章をもぎ取り、社長を助け起こそうとひざまずいている神尾に渡した。


「じゃあな」
「……まったく、お前って奴はめちゃくちゃだな」


 神尾は苦笑しつつ、ポケットから何かを取り出し、基に手渡す。


「例の、あれもつけてる」
「ん、サンキュー。持つべきものは仕事の早い秘書兼親友だな。元気でやれよ」


 そして基はしっかりと沙耶の手を握り直し、常務室を出て行こうとする。


「もっ、基!!」


 広隆は口元をハンカチで拭いながら息子の名を呼んだ。


「なぜだ!」



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