逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~

 窓拭きに夢中になって気づかなかった。

 沙耶は窓ガラスの前に置いていた脚立から降り、手袋を外しながら慌てて神尾の元に駆け寄った。


「またやっちゃった……神尾さんじゃなくて、社長ですね。申し訳ありません。おはようございます」
「はい、おはようございます」


 神尾はスーツ姿なのにゴム手袋を手にしている沙耶を見て眼を細める。


「今日はずいぶん早くから来てたみたいですね」


 始業時間にはまだ一時間以上あるのに、社長室は明らかにピカピカになっていた。

 だが沙耶の返事は神尾の想像とは違っていた。


「ええ。昨日雨が降ったから、ビルの周りに落ち葉がひどくて」
「えっ? もしかして外まで掃除してたんですか? それはあなたの仕事ではないはずですが」
「いえ、大きく言えば、私の仕事だと思います。このビルの近くですし」
「近くって……またそんな屁理屈を……」



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