逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~
神尾は呆れたようにため息をつき、そういえばうちのビルの周りだけ、よそと比べてすっきりしているなと思いながら出社したことを思い出した。
「始業前にすみません、熱いお茶をいただけますか」
「はい、すぐに」
沙耶は一礼して、給湯室へと走る。
今の沙耶はソルシエールで働く掃除婦ではなく、このエールコンサルティングの社長秘書であった。
沙耶が基と離れることを決めてから、すでに二年が経っている。
ソルシエールを辞めてから数週間、沙耶は自分から言いだした別れにひどく落ち込み、傷ついていたが、それでは基に会わせる顔がないと一念発起し、小さな会社の契約社員になったのだ。
企業や個人向けに、お掃除道具のレンタルをする、三十人ほどの会社である。
三ヶ月の予定がどんどん伸びて、気がつけば二年近く働いていた。
真面目に黙々と働く沙耶は、社員にならないかと何度か打診されたのだが、都度少し考えさせて欲しいと頭を下げ、毎週金曜日、仕事を終えたその足で鎌倉の別荘に行き、一人で週末を過ごす日々を送っていた。