逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~
「あなたは強いですね」
「でも、私は一度も返事を返せてないんですよ。基がアドレスを書いてないから、受け取るだけなんです。だから基の方がずっと、強いと思います」
物理的に離れて、基と心が離れたと怯えたことは一度もなかった。
基からの絵葉書が沙耶の心を支えてくれるから。
だが基には、沙耶から連絡するすべがないのである。
彼を支えているのは『ここで沙耶のことを思っている』というその思いだけなのだ。
(だから基の方が、私よりずっと、ずっと強い……。)
基のことを思うと、胸が熱くなる。
好きだという気持ちが優しく沙耶を満たしてくれる。
基がこの世界のどこかで元気だと思うと、幸せな気持ちになった。
だが仕事中は基のことばかり考えてはいられない。
「郵便物を取ってきますね」
沙耶は一礼して、社長室を出ていった。
「さて、準備は万端だが、どう切り出したらいいものか……」
一人社長室に残された神尾は、熱いお茶を飲みながらパソコンのディスプレイを眺め、深いため息をついた。