逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~

「あはっ、なんだよ、それ!」


 黒ジャケットにグレーのストライプ地のスラックスというディレクターズスーツを身にまとった基は、楽しそうにケラケラと笑いながら沙耶の手をつかみ、引き寄せる。


「幻じゃ沙耶を抱き締められない。違うか?」


 まっすぐに自分を見つめる灰色の瞳。
 その光はやはり、基にしかない光だった。

 二年前のぬくもりが、たった今鮮やかに蘇り、沙耶の心を揺さぶった。


「うそ、うそっ……!」
「嘘じゃない。沙耶、頼むから、俺を抱きしめてくれ。強く」


 基の甘く響く、低い声。
 それはあまりにもリアルだった。

 沙耶は混乱する頭の中、夢中で基の背中に腕を回した。
 これが夢なら覚めないでと心から願った。



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