逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~
驚いたのは沙耶である。
「どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないよ! こんなところでなにちんたら油売ってんだい!」
「油売ってるって……」
報告書を書くのは仕事の一環であって、休んでいるわけではないのだが、伊織は気色ばみ立ち上がった。
「あー、こうしてはいられないね。こういう時は潤だね!」
「えっ、あの?」
「ふんっ。行くんだよ、あの軽薄御曹司のパーティーに」
一瞬なにを言われたかわからなかった。
数秒遅れて、伊織の言葉の意味を理解した。
「……無理です!」
「無理じゃないよ。あんたこのまま馬鹿にされっぱなしでいいのかい。ここで度胸を見せなくていつパッと散るっていうんだい!?」
「ち、散りたくないですっ!」
散る前提の伊織に沙耶はおののくが、伊織は止まらない。
「そもそもパーティーに着ていくドレスなんて持ってませんっ!」
「わかってるよ!」
そして目にも留まらぬ速さで電話をかけ始める。
「潤。ああ、あたしだよ。うちからドレス持ってきて。ちがーう、あたしじゃないよ、沙耶だよ! 世界中の男がダンスを申し込みたくなるような、いい女になる特別なドレス一式持ってきな! いい? すぐだよ!」