逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~


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「じゃあ沙耶(さや)ちゃんは、常務室をお願いね」
「はい、わかりました」


 毎月、月初のこの時間は、従業員は各フロアに集められ、社長の訓示を聞くことになっているのだ。

 沙耶は掃除道具が積まれたカートを押しながら、チームリーダーに渡された専用のカードキーを常務室に通し、中に入った。


「きれい……」


 沙耶は思わず窓辺に駆け寄って窓の外を眺める。

 常務室は通称エールビルの十七階にあった。

 エールビルは、地上から七階までは高名な建築家によって昭和初期に建てられた、歴史的価値があるもので、上の十階は平成になってから建てられた近代的ビルだ。

 モダニズムが残る日本橋の町並みを一望にできる風景の美しさに、一瞬目を奪われる沙耶だったが、ここには仕事に来ているのだと、慌ててその場を離れる。



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