逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~
「で、それからどうなったの!?」
「お茶を飲んで、一緒にチェスをして遊んで、雨がやんだら帰って行きましたよ。で、それっきり」
「ひゃー!」
潤は四杯目のジョッキを口に運びながら、足をジタバタさせた。
本当はその時、沙耶にとって彼が心の王子様になるような一件があったのだが、そのことは潤に話さなかった。
夢か現実か。大人になった今は、それこそ新緑が見せた魔法だと、そんな気がしているから。
「名前は? 年は?」
「聞いてないです。とても大人っぽく見えたけど、たぶん中学生くらいだったんじゃないかなぁって、思います」
「ファンタジーだねえ」
「かもしれないですね」
そう。おそらく、ただその時だけの思い出だから、ファンタジックで美しいのだ。
現実の男なんて野蛮。私の気持ちなんて御構い無しに、土足で踏み込んでくる。
沙耶の脳裏に、熱っぽく自分を見つめた基の顔が浮かんだ。
(……男なんて最低だわ、やっぱり。)