逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~

 まさかと思いながら、そんなおとぎ話のような偶然があるはずがないと思いながら、思わず問いかけていた。


「……あの、やっぱり別荘には犬がいました?」
「ああ、いたよ。ゴールデンリトリバーを飼ってたよ。すごく人懐っこくて」


 そして彼は花開くような笑顔を浮かべた。


「もう当時の犬はいないけどね。ビスケって名前だったよ」
「……っ!」


 鈍器で頭を殴られたような気がした。


(うそ、まさか、そんなことある……!?)


「沙耶さん、どうかした?」
「いえ、なんでもないです……なんでも」


 沙耶はコーヒーのカップをもったまま立ち上がる。


「ごめんなさい、もう帰ります」
「えっ、じゃああの、連絡先を、」


 美鶴はさっき返された名刺に慌てて万年筆で何かを書きつけると、沙耶に差し出した。


「僕の携帯。できればまた会いたい」
「……」


(会いたい、なんて。夢の中の王子様は、夢だから美しいのに。夢だから傷つかなくて済むのに……。)


 こんなことはいけないと思うのに、ダメだとわかっているのに。沙耶は思い出に負けて、名刺を受け取ってしまっていた。



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