逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~
けれどもしかしたら、鎌倉の王子様が美鶴かもしれないのである。
すると妙に緊張してしまう。
「あーもう、やめよう。こんな不毛なことっ!」
沙耶は名刺を手に取り破ろうと指をかけるが、名前が書いてあるものをゴミ箱に捨てるのもためらわれて、結局破り捨てることはできなかった。
(連絡は、しない……。しないほうがいい。いくら彼がチョコレートを売ってる普通のサラリーマンだと言い張っても、やっぱり住む世界が違う。それは変えようのない事実……。自分一人ではどうにもできない問題だわ。)
その瞬間、沙耶はスイッチが入ったようにすうっと冷静になって、もらった名刺をバッグに入れる。
(そうだ。これは返そう……。そのほうが連絡はしないとわかってもらえるし、期待させることも……することもない。)
沙耶の胸の奥には、いまだに硬い棘が刺さったまま、時折存在を主張して、沙耶の柔らかい心から血を流させるのである。
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