革命の朝、ミューズは舞い降りかく語る
そして終末の鐘は鳴らされる
「だから、何で私なんだよ!」

寿梨は空港の建物を出ながら、フード付きコートのファスナーを苛つく手付きで閉めた。勿論フードは被っている。


空港の外は見渡す限りの銀世界。気温が低すぎて空気は澄んでいる。


「まあまあ、そんな事、言わず。せっかく入ったお仕事なんですから…これキッカケで、また曲が売れるかも知れませんよ?」

マネージャーの細川は、もう、出発前から何度も交わしているこの会話を、またもや忠実なマネージャーとして返した。


この男…

デビュー前から知っている、この男…

ひとつも有名じゃなかった頃から、

ミリオンセラーを叩き出し、調子に乗りまくり、方々に迷惑をかけてしまってた、あの頃も…

そして今、世間から忘れかけられている、年下の1発屋ミュージシャンの女に対して…

ずっと変わらない。変わらない敬語で。変わらない態度で。


寿梨はそう思いながら細川の横顔を凝視した。
思えば15年の付き合いだ。何度も恋に落ちかけた。その度に細川は言った。

「それは、勘違いですよ」

彼は長身を折り畳むように寿梨を見下ろし、左の口の端だけで笑った。


「そう、そうなんだ。彼は仕事だから優しくしてくれているだけなんだ」

「どうしてこんな美しい男性を私のマネージャーに選んだんだろう?」

「ハゲオヤジを選んでくれてたら、こんなに苦しまずに済んだのに!」

寿梨は、ひとりのベッドで、そう言いながら何度泣いたであろう。




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